ナレーター:前回のまでのあらすじ       ヴェローナの街で争い合う2名門       モンタギュー家とキュピレット家       しかしモンタギュー家の一人息子ロミオが       キュピレット家の一人娘ジュリエットに恋してしまい       両親に内緒で結婚までしてしまったのです       今からご覧にいれるのはその後の物語       どうぞ最後まで楽しんでいってください 【場面:広場】 ベンヴォーリオ:なぁ マキューシオ:あ? ベンヴォーリオ:やっぱり広場へ遊びに行くのはやめないか?         キュピレットの連中がうろついてる気がする マキューシオ:・・・ばったり会ったら喧嘩は避けられないだろうな        隣にお前もいるし ベンヴォーリオ:俺と喧嘩に何の関係があるんだ? マキューシオ:おいおい、俺はおまえほど喧嘩っ早い奴を知らないぞ ベンヴォーリオ:それはこっちのセリフだ・・・ん?         まずい、キュピレット家のティボルトが来るぞ マキューシオ:はん!ティボルトだろうが何だろうがかまうものか! ティボルト:これはこれは、モンタギュー家のベンヴォーリオ       それと大公の親戚のマキューシオ・・・だったか?       ロミオと話がしたいのだが・・・奴はどこにいる? マキューシオ:回りくどいこと言ってんじゃねーよ        もっと簡単に言い直せるだろうがよ    一言、喧嘩がしたいってな ティボルト:――その準備はできている       マキューシオ、お前はいつもロミオと調子を・・・ マキューシオ:その口から出るのは御託ばかりだな    良いから抜けよ、俺の楽器はこの剣でいい        それとも、おまえの腰のソレは単なる飾りか? ティボルト:いいだろう、おまえも前から気に食わなかったんだ ベンヴォーリオ:おい、ちょっと待て         人目の多いここで一騒動起こすつもりか! マキューシオ:ハッ、人目ねえ    勝手に見ていけばいいさ、ロミオなんて・・・    ベンヴォーリオ、お前は離れてろ    待たせたな ティボルト:もういいのか?最後の挨拶にしては短いが マキューシオ:最後だぁ?    そりゃぁテメェのことだろうがよっ!! (二人戦う。マキューシオが押されいったん座り込む) ティボルト:口ほどにもないな マキューシオ:チッ、うるせぇ黙ってろ・・・! (ロミオが現れる) ロミオ:ん?     おい、みんな何やってるんだ!     剣をおろせ! マキューシオ:邪魔すんじゃねえ、ロミオ! ロミオ:マキューシオ! クッ、ベンウォーリオも手伝ってくれ ベンヴォーリオ:俺だってそうしたいんだが・・・ ティボルト:ロミオ・・・!       この前はよくも赤っ恥をかかせてくれたな       貴様に言いたいことは山ほどあるがまずはこうだ       この悪党め! ロミオ:ティボルト・・・     仲良くしよう     僕たちは親戚になったんだ ティボルト:親戚だと?気持ち悪い!   わけの分からないこと言ってないで貴様もかかってこい! マキューシオ:はんっ!ロミオが出るまでもねえ・・・        次で最後だ・・・いいな! ティボルト:――いいだろう!!貴様を先に片付けてやる! (マキューシオ、攻撃をかわしティボルトの後ろにまわる) ティボルト:なにっ!? (マキューシオ、攻撃をしかける) ロミオ:やめるんだマキューシオ! マキューシオ:! (一瞬ためらったマキューシオにティボルトが斬りかかる) マキューシオ:ぐああああああ ティボルト:お、俺は別にそんなつもりじゃ・・・       そっちが避けなかったんだからな! マキューシオ:チッくそ、こりゃとんだヘマを、やらかしちまったな・・・        やつは・・・逃げた、のか? ベンヴォーリオ:おいマキューシオ大丈夫か? マキューシオ:多少堪える引っかき傷だ。くそっ! ロミオ:しっかりしろ、傷は深くない! マキューシオ:まぁ井戸ほどに深くないし、教会の門より狭いがな        あれ・・・くそ、目が霞みやがる        お前が邪魔したからだぞ、ロミオ! ロミオ:すまない・・・それでも止めたかったんだ ベンヴォーリオ:ロミオ・・・話は後にしよう         早く医者に診せなければ・・・ マキューシオ:そうだな・・・ベンヴォーリオ、どこか休めるところに・・・        (痛ぇ・・・思った以上に、深いのか?)    (チッ、目が霞んで傷がよく見えねえ・・・)     ロミオ:マキューシオ? マキューシオ:ロミオ、俺は・・・ ――いや、両家ともくたばっちまえ・・・ ロミオ:・・・ジュリエット     おまえの美しさが俺の心を弱気にし     俺の勇気も鈍らせてしまったのか・・・? べンヴォーリオ:ロミオ・・・         医者に見せる前にマキューシオは死んだ         俺たちが思ってた以上に傷が深すぎたんだ ロミオ:マキューシオが・・・死んだ・・・?     ・・・マキューシオが? ・・・・・・・・・・・     (ティボルト・・・!!) べンヴォーリオ:お、おいロミオ、何をする気だ!?         まさかティボルトを・・?         はやまるなロミオ! ロミオ:見つけたぞティボルト!!     さっきはよくもマキューシオをやってくれたな!     お前は絶対に許さない! ティボルト:それが貴様の本性か!   最初からそうしてればよかったんだよ!青二才目が! ロミオ:上であいつが待っている 俺がお前を送ってやるよ! ティボルト:いつも一緒にいたおまえがお供すればいい       どうせこの身は死刑だ! ロミオ:マキューシオのところに行くのは俺かおまえか?     おまえだああああああ (ロミオ、ティボルトを討つ) ティボルト:ぐああああああ       はあ・・・はあ・・・       くそ、マキューシオが・・・迎エニ・・・キテイル       おのれ、ロミオ・・・・       スグニ俺モ・・オマエヲ・・       迎エニ・・クル・・ゾ・・ べンヴォーリオ:ロミオ、早く逃げろ!         町中が騒ぎ出した         捕まると死刑は免れない! ロミオ:べンヴォーリオ・・・・・俺は・・・ べンヴォーリオ:何をしてる!早くするんだ!! 【場面:裁判】 大公:ロミオはまだ見つかっていないようだが仕方ない    これより今回の件の裁判をはじめる    どこだ、この争いをはじめた者は? べンヴォーリオ:大公様、今回の不幸ないきさつ         わたくしが申し上げます キュピレット:おおティボルト・・・なぜあのようなことに        公正な大公様、どうか一族の償いにモンタギューの血を!        おおティボルト、ティボルト・・・ 大公:・・・ではべンヴォーリオ    この血塗られた争いの張本人は誰だ? べンヴォーリオ:ティボルトにございます         奴はロミオが止めたにも関わらず         争いをつづけ、マキューシオを殺しました         そして復讐に燃えるロミオがティボルトを・・・         これが事の真相にございます キュピレット:こっ、この男はモンタギューの身内ゆえ嘘をついているのです!        きっと多人数で1人の命を奪ったに違いない!        どうかティボルトを奪った、ロミオにも死の裁きを! 大公:ティボルトがマキューシオを殺し    ロミオがティボルトを殺した    この責め苦は誰が負おう? べンヴォーリオ:ロミオではありません         彼は親友のために立ち上がったのです キュピレット:貴様ぁ・・・!!    さっきからでたらめを! 大公:法の代わりに裁いたといえど    ロミオの罪は罪だ    ロミオは追放処分とする    この決定は決して覆らない、よいな!?    これにて解散とする キュピレット:・・・・・・・・・・ 【場面:教会】 ロレンス:・・・ふむ      ロミオ、出てくるがいい ロミオ:神父様・・・私の判決はどのように? ロレンス:ロミオ・・・君はこの都から『追放』とのことだ ロミオ:そん、な・・・!     それならまだ死刑の方がましです ロレンス:落ち着きなさい      本来ならば当然『死』となるもの      それを、法を曲げ『追放』に留められたのだ ロミオ:ジュリエットの居ない地を離れることなんて・・・ ロレンス:体は雄雄しくなっても女々しいものだな      おまえはティボルトだけじゃなくジュリエットも殺す気か      おまえがここへ戻ってこれるよう最大限の努力はしよう      それよりも今はすべきことがあるだろう ロミオ:それは・・・ ロレンス:・・・ん、迎えが来たな      日が昇るまでまだ時間はある      さあ、ジュリエットのところへ行ってあげなさい ロミオ:・・・はい 【場面:ジュリエットの部屋】 ジュリエット:もう行ってしまうの?        朝が来るにはまだ時間はあるわ        ほら、あれはヒバリじゃなくてナイチンゲールの鳴き声よ ロミオ:あれは朝を告げるヒバリの声だ     朝が来てしまったからにはもう行かないといけない     ほらごらん、東の闇にも燈がともってきた     生きるためにはもう都を出ないと・・・ ジュリエット:違うわ、あれは街の光よ、朝の光じゃ無いわ        もう少しここにいても良いのよ ロミオ:そう、あれは街の光     そしてこの鳴き声はナイチンゲールだ     ・・・僕は君が望むなら殺されてもかまわない     僕の命と引き換えに君と1日いられるなら・・・ ジュリエット:/!        ・・・いえ、もう朝よ        あの耳障りな歌声は間違いなくヒバリ        もう・・・意地悪なさらないでほしいわ        少しは引き止めたくなる気持ちもお分かりでしょうに・・・ ロミオ:すまない・・・     僕だって別れを思うと身が引き裂かれるような想いなんだ・・・ ジュリエット:朝を告げるヒバリも・・・        今日ばかりは私たちを引き裂く別れの歌にしか聞こえないわ! 乳母:お嬢様お嬢様 ジュリエット:あら、ばあや邪魔しにいらしたの? 乳母:お父様がいらしたのをお告げに参りましたのにあんまりですわ ジュリエット:そう、朝からはどうしても逃れられないのね ロミオ:悲しいことだが・・・     さようならだ (ロミオとジュリエット、お別れのキス) ジュリエット:行ってしまわれるのね        私の・・・私の運命の人! ロミオ:! ジュリエット:あなたの居ない1分は数日のようだわ        ・・・じゃあ再会するまでにばあやになっちゃうね ロミオ:わかっているよジュリエット     必ず君が若いうちに迎えに来るから     そのときまでさようならだ ジュリエット:・・・・さようなら (ロミオ去る) ジュリエット:ああ、運命の女神様        移り気なあなたにお願いするのはお門違いかもしれないけど、        いえ、移り気ならばすぐに彼を返してくれるわね        どうかあの人を返して! キュピレット:ジュリエット、もうお目覚めかい ジュリエット:あら、お父様、何かしら キュピレット:・・・おや? ジュリエット:? キュピレット:また泣いていたのか        彼は帰らぬ人・・・深い悲しみは身を蝕むぞ ジュリエット:泣かせてください・・・この別れを送るために キュピレット:死を悲み、涙しても帰らぬは道理        そうか、彼が死に、悪党が生きていることが悲しいのだね ジュリエット:悪党? キュピレット:ああ、あのにっくきモンタギューの倅だ! ジュリエット:そうですわ・・・私と彼との間には千里の壁がある        私をこうも悲しませる罪なお方 キュピレット:そうだな、あいつが生きているから収まらない ジュリエット:生きているのに手が届かない        なんてもどかしい・・・ キュピレット:ああ奴は私に任せておきなさい        奴の居るマンチュアに人を遣ろう ジュリエット:では、遣いが決まりましたら渡すものは私に・・・ キュピレット:ああ、かまわないよ        ・・・でだ、本題だが キュピレット:・・・パリス卿との結婚、いい話じゃないか ジュリエット:そんな!返事もせずに結婚の日取りまで!! キュピレット:何を言う、彼ほど誠実な男は居ない        金も、地位も、人柄も ジュリエット:愛の心、うれしくは感じます キュピレット:そうかそうか、では・・・ ジュリエット:ですが!嫌なものを受け入れるつもりはありません キュピレット:なん・・・だと・・・        それでも誇り高きキュピレットの娘か!! ジュリエット:誇りも何も、したくないものに誇りなぞ持てません キュピレット:数ある中から選ばれた名誉だというのに・・・この親不孝もの! ジュリエット:私の不幸はどうでも良いのですか!!この髭爺!! キュピレット:子は親の話を聞くものだ!この我侭娘!! ジュリエット:子の願いはどうでも良いのですか!!このたぬき!! 乳母:旦那様そんなにののしっては・・・ キュピレット:うるさい!萎びた婆が賢女面しおって 乳母:おためを想って申し上げてますのに    まぁジュリエット様を見るともう手遅れかも知れませんが キュピレット:黙れ、この枯れ木めが!        まったく、興がそがれた!私はもう行くぞ。        ふん、当日は縄に縛ってでも連れて行くからな! ジュリエット:(ベロベロ) キュピレット:それでも結婚が嫌というなら、『勘当』だ!! ジュリエット:・・・ (キュピレット部屋を出ていく) ジュリエット:・・・ばぁやはどう思う? 乳母:・・・ロミオの追放は覆りません    私は伯爵様と結ばれるのが一番ですと申し上げますわ ジュリエット:・・・そう、わかったわ        私が悪かったとお父様たちに伝えて 乳母:え? ジュリエット:私はこれから許しを求めにロレンス神父様の下に向かうわ 乳母:・・・仰せのままに ジュリエット:ああ、おそろしい悪魔だわ        こうして私に何度誓いを破らせようと言うのかしら        でもこのままじゃいられないわ        神父様、どうか私に救いの手を・・・ 【場面:教会】 ロレンス:ロミオのことは本当に大変なことになった…      ん?あれはパリス殿?      この庵に何の用事だろう… パリス:神父様!木曜に結婚式を挙げさせてください! ロレンス:木曜日と?それはまたあまりに急な パリス:舅のキュピレットがそう望まれるのです ロレンス:(キュピレット…!)      娘御の心はご存知か? パリス:いいえ、まだ知りません ロレンス:となると話の進め方が穏やかではないな      賛成できん パリス:不幸の後ですから、話ができなかったのです     舅は娘を悲しみから立ち直らせるためにも早く結婚をと… ロレンス:… ロレンス:!      おお、ちょうどジュリエットがこの庵へ パリス:いいところへ来てくれましたね     私の愛しい妻… ジュリエット:… パリス:あなたは懺悔をなさりに神父のもとへ? ジュリエット:それにお答えすれば、        あなた様に懺悔することに パリス:あのかたにハッキリ申し上げなさい、     私を愛していると ジュリエット:あなた様にハッキリ申し上げます        「あのかた」を愛していると パリス:ということは、つまり…     わたしを愛しているということ!     かわいそうに… すっかり泣きはらして ジュリエット:…        神父様、今は大丈夫でしょうか?        それとも夕方のミサのときに改めましょうか? ロレンス:今は大丈夫だ      パリス殿、すまないが二人だけにしてもらえぬか? パリス:はい     ジュリエット、木曜の朝迎えにきます     そのときまで口付けはお預けしておきます! (パリス去る) ロレンス:ジュリエット、話はすでに聞いておる・・・      パリス殿と木曜に結婚だと ジュリエット:どうかこの結婚を取りやめる手段を教えて下さい        どうにもならないのなら、わたし…        この懐剣で…!! ロレンス:それだけの勇気があるのなら      方法がないわけではないが… ジュリエット:教えてください!        愛しいロミオの妻として貞操を守るためなら        なんだってやってみせます!! ロレンス:・・・・・・      わかった      ではいいか、家に帰ったら楽しげに      パリスとの結婚を承諾するのだ ジュリエット:――神父さま? ロレンス:明日は水曜、式の前日だな? ジュリエット:うなづく ロレンス:明日の夜は乳母も外し、一人で床につきなさい      この瓶を持ってね… ジュリエット:…その瓶は…? ロレンス:人を「仮死状態」にさせる薬だ ジュリエット:! ロレンス:心配はいらぬ、42時間後には目を覚ます      いいかね、床につく前に、全て飲み干すのだ      すると、朝が来て、パリス殿が来る頃には… ジュリエット:わたしは死んでいる…! ロレンス:(うなづく)      そうなると、お前は一族の霊廟へ運ばれるだろう      ロミオには手紙で知らせ、共に霊廟に駆けつける ジュリエット:(うなづく) ロレンス:ロミオと私はお前の目覚めを待つ      目覚めたら夜のうちに二人でマンチュアへ発つのだ ジュリエット:…ああ、神父さま!! ロレンス:…これでお前はパリスに穢されることもない      お前に心変わりや、気後れがない限りな ジュリエット:気後れなど致しません!        そのお薬をください!!! ロレンス:ではこれを…      それでは行け!      心を強く持ち、みごとやりぬくよう      私は急ぎ使いの神父に手紙を持たせる ジュリエット:愛よ、私に強い心を!        失礼します、神父様… 【場面:キュピレット家】 キュピレット:あぁ忙しい、忙しい、明後日は結婚式        立派なパーティーにしなくては! キュピレット夫人:(ため息) 乳母:… キュピレット:おい、ここに書き記した客を招待するのだ!        お前、腕の立つ料理人を雇って来い!! キュピレット夫人:今探しに行かせてますよ! キュピレット:…どうも準備が遅れてるようだな        そうだ、娘はロレンス神父のもとへ行ったか? 乳母:はい、さようで キュピレット:神父がうまく説き聞かせてくれるかもしれぬ        強情なワガママ娘だ、誰に似たんだか… キュピレット夫人:(あなたよ) 乳母:(旦那様ですよ) (ジュリエットが帰ってくる) 乳母:!    懺悔からただいまお帰りです、    楽しげなお顔で…    ? キュピレット:どうした、どこをうろついてきた? ジュリエット:お父様に背いた罪を懺悔していました        神父様に、        こうしてひざまづいて        お父様のお許しを願うよう諭されました 乳母:まぁ、お嬢様・・・! ジュリエット:どうかお許しください、お父様        これからはお言いつけどおりにします・・・ キュピレット:おお、娘よ!!        これ、伯爵に使いを!!すぐに知らせるのだ        明日の朝にでもこ結婚式を挙げようと! キュピレット夫人:! キュピレット:娘よ、立つがいい、これでいいのだ        あの立派な神父には町をあげて感謝せねば! ジュリエット:ばあや、私の部屋にきてちょうだい        明日必要な衣装を選びたいの、知恵を貸して キュピレット夫人:・・・あなた、木曜まで待ったらどう? キュピレット:ばあや、行ってやれ、明日は教会に行くのだ キュピレット夫人:それでは私たちが準備する暇がありません          そろそろ日が暮れますよ キュピレット:なあに、わしが駆け回る、万事上手く運ぶさ        今度だけは主婦代わりだ、任せておけ! キュピレット夫人:(ためいき) キュピレット:おい、誰かおらぬか        ・・・誰もおらぬようだな        よし、わしがパリス殿のところへ出向こう キュピレット夫人:… キュピレット:どうだ、この心すっかり軽くなったわ!        ワッハッハ! 【ジュリエットの部屋】 ジュリエット:私はこの衣装か、これがいいと思うのだけど        どう思う・・・? 乳母:私はこっちのほうがいいと思いますよ    お嬢様の肌の色、髪の色には一番映えて    試しに鏡の前であててみてくださいな ジュリエット:・・・そうね、その服にするわ        確かにこれが一番ね 乳母:小物類は、そのドレスですと・・・    これなんていかが? ジュリエット:さすがばあやだわ! 乳母:それではこれで――    明日必要なものは全て選べましたかね ジュリエット:ええ、ありがとう!        ――ところでばあや 乳母 (?エモ) ジュリエット:今夜は一人にして欲しいの・・・ 乳母:お嬢様!? ジュリエット:だって私は・・・罪深い女        神様にお許しいただけるように・・・        たくさんお祈りをしなければならないから 乳母:――お嬢様・・・ (夫人現れる) 夫人:どう、忙しそうね?お手伝いしましょうか? ジュリエット:いいえ、お母様        明日の婚礼に必要なものは全部選んでおきました        どうぞ、いまのところは一人にしてください 夫人:ジュリエット・・・? ジュリエット:今夜はばあやも一晩中お母様の御用を・・・        きっとこのような急なお話        お母様も手が足りないことでしょう 夫人:…    ではおやすみなさい、お前も早く休むのですよ (夫人、ばあや部屋を出ていく) ジュリエット:――さようなら、今度お会いするのはいつの日か        さあ、この瓶の薬を飲み干すのよ!        でも・・・でも、もし、この薬が効かなかったら?        私は結婚せねばならない        (そのときは、この懐剣を私の胸に・・・)        では逆に、もしこれが毒だったら・・・?        ロミオと私を結んだ罪を暴かれぬように        神父様が私に毒を持たせたのかも・・・?        いえ、あの神父様は立派な方        そんなことはありえない・・・!        でも万が一、        ロミオが来る前に私一人目が覚めてしまったら?        先祖代々の埋められた骨、        葬られたばかりのティボルトの腐った屍、        腐臭と亡霊で私は気が狂ってしまうのでは…        あああああああああああああああああああ        ロミオ、今行きます        これを飲むのもあなたのため・・・! 【場面:キュピレット家の広間】 キュピレット:さあ働いた、働いた、そろそろ午前3時だ        これ、パイは大丈夫だろうな?        費用は惜しむなよ 乳母:まあ、女の仕事に口出しなさって!    お休みになさいまし、お体に触りますよ キュピレット:なあに、もっとくだらぬことで徹夜もしたが        体に障ったためしはない! 夫人:そうですよ、若いときは女の後を追っかけて・・・    もうそんな徹夜はさせません! キュピレット:おお妬きおる、妬きおる 夫人:まったくあなたときたら・・・! キュピレット:それはお前、あのときは・・・ 夫人:若くて可愛い子のお尻ばっかり・・・! キュピレット:男子はいくつも愛をもってるものだよ!? 乳母:あの、そうこうしてる間に夜が明けましたよ    パリス様もどうやらご到着のようです… キュピレット:はっ! ジュリエットを起こさねば!        ばあや、起こして晴れ着を着せてくれ        パリスの話し相手はわしがする、いそげ!! 乳母:うなづく 【場面:ジュリエットの部屋】 乳母:お嬢様、朝ですよ!あらまぁ、はしたない!    晴れ着のままで床に転がってるなんて・・・    やれやれ・・・目を覚ましてくださいな    お嬢様、お嬢様、お じょ う さ・・・    ああっ、    きゃあああああああああああっ    だれか、だれか、誰か!!!    お嬢様が、お嬢様が・・・死んでいる!!!!    気付け薬を、旦那様、旦那様!!! 夫人:なにを騒いでいるの? 乳母:あああぁ 夫人:どうしたというの? 乳母:あれを、あれを!!!! 夫人:これは!・・・あああ、こんなに冷たくなって!    どうしてこんなことに、元気だったというのに! 乳母:うっ・・・うぅっ・・・ 夫人:生き返って、目を開けて、私の娘、私の命    お前がいなくては私も生きてはいけない!    だれか、誰か来て!早く誰か呼んで!!! キュピレット:どうした、ジュリエットはまだか?        花婿はご到着だ 乳母:亡くなったのです… うっ うわああぁ… 夫人:ああ・・・むすめは、死にました    しんで・・・しまいました・・・ キュピレット:なに!? 何処だ娘は???        おお・・・        ジュリエット・・・ (ロレンス現れる) ロレンス:さて、花嫁の教会にいかれるご用意は? キュピレット:用意はできました、しかし・・・        娘は・・・死んでしまいました・・・ 夫人:あぁ、これほど悲しいことがあったろうか・・・    喜びも悲しみもたった一人、お前のためだったのに 乳母:こんな呪われた日は今までなかった! 夫人:あぁあぁぁあぁあああああああああ!!!!!! キュピレット:わが娘、わが魂、もう娘ではない、        お前は死んだのだ、わしの娘は死んだのだ!        娘と共にわが喜びも葬られたのだ!!! ロレンス:静 か に し な さ い!!!!!!!      騒ぎ立てたところで死者は生き返らぬ      この美しい娘御は天とあなた方夫婦の共有物      現世での命は失ったが、現世の命はいつか失うもの キュピレット:・・・ ロレンス:娘御の命は天で永遠となり、神のもとで、幸せになるであろう キュピレット:… 夫人:… ロレンス:涙をふかれよ、そしてこの美しい亡骸に花を      習慣に従い晴れ着を着せて教会に運ばれよ キュピレット:・・・祝いのために整えた一切のものを        呪わしい葬式の用にあてるとしよう・・・ 【場面:マンチュア】 ロミオ:ジュリエットの夢を見た     夢で会えただけでもこんなに嬉しいだなんて     実際に会えたらどれだけの喜びが待ってるんだろうか ロミオ:ん、ヴェローナからの便りか バルサザー:ロミオ様、お久しぶりです ロミオ:やあバルサザー、ジュリエットは元気にしてるかい?     彼女さえ無事なら万事しあわせだ バルサザー:・・・たしかにご無事で、万事しあわせに    亡骸は無事キュピレット家の霊廟に眠り       霊魂はしあわせに天使たちと暮らしていらっしゃる        ロミオ:なに、それは本当か!!? バルサザー:悪い知らせをもってまいり申し訳ありません・・・ ロミオ:ああ、ジュリエット!!!     そうなら戦いを挑むぞ、運命の星よ!     足の速い馬をやとってくれ、今夜発つ バルサザー:お願いです、どうか短気をおこさないでください ロミオ:それはおまえの思い過ごしだ     で、神父からの手紙はないんだな? バルサザー:ええ ロミオ:では行け バルサザー退場 ロミオ:ジュリエット、すぐに君の元へいくよ     でもどうやって?     そういえばこの辺りに貧苦を極めた薬屋がいたな     たしかあれがあの男の家だ     おい、薬屋! 薬屋:誰だね?今日は休日なのだが・・・ ロミオ:おまえは金に困ってるようだな     ここにおまえがほしい金がある     これで毒を分けてもらいたい     それもききめが早いやつを 薬屋:そのような毒ならあるにはありますが    マンチュアの法律ではそれを売れば死刑です ロミオ:それほど貧苦の生活をしてるのに死が怖いのか?     この世の法律はおまえの味方じゃない     貧乏を捨てろ、法律を破れ、そしてこれを受け取るんだ 薬屋:・・・・・    お受けするのは私の貧乏であって私の心ではありません    いいですか? 私は止めましたよ ロミオ:金をやるのはおまえの貧乏にだ、おまえの心にじゃない 薬屋:これを飲めばすぐにでも死ねます ロミオ:さあ、この金を受けとるんだ     人の心には毒よりも恐ろしい毒でもある     この世では毒よりも多くの人を殺すからな     毒を売ったのは俺のほうだ、おまえのは毒じゃない     じゃあな、何かうまいものでも食って肉をつけろよ 薬屋:じゃあ今夜はステーキだ ロミオ:さあいこう、毒ならぬ命の薬     俺とジュリエットの仲を取り持ってくれ 【場面:教会】 ジョン:フランシスコ派のロレンス様 ロレンス:そのお声は修道士ジョン殿      マンチュアからよく戻られた      して、ロミオへの手紙はちゃんと渡してくださったかな ジョン:それが途中の街で伝染病が流行していると言われ     仕方なく引き返してきました ロレンス:では手紙は今どこに? ジョン:今ここに ロレンス:なんということだ      実はあの手紙、重大な要件をになっていたのだ      このままではまずいことになる      ジョン殿、すまぬが鉄梃を一つ探し出してここへ持ってきてくれぬか ジョン:すぐに ロレンス:霊廟まで一人でかけつけねばなるまい      ことの次第をロミオが知れば怒るだろうな      ジュリエットはロミオが来るまでこの庵にかくまおう 【場面:霊廟】 パリス:ジュリエット、また会いにこの霊廟へ来たよ     美しい花の処女、花をおまえの新床に     この花に夜ごとかぐわしい水を     花が尽きたら嘆きの涙をかわりに パリス:む、誰かたいまつを持って近づいてくる     夜よ、この身を隠せ (ロミオ現れる) ロミオ:よし、この手紙を朝一番に母上に渡してくれ     それとここから先には決して近づくな     もし近づいたら俺はお前を殺さないといけなくなる バルサザー:決してお邪魔は致しません ロミオ:忠実な心、よくぞ見せてくれた     さ、この金を     達者で暮らせよ バルサザー:ロミオ様もお元気で バルサザー:・・・ああは言われたが心配だ       このへんに隠れていよう ロミオ:この霊廟にジュリエットが眠っている・・     ジュリエット・・・今そっちへいくよ パリス:あれは追放されたモンタギュー     ジュリエットの従兄弟を殺した奴だ     たしかその悲しみで美しいジュリエットは死んだと聞かされた (パリス、ロミオに姿を見せる) パリス:その罪の手を止めろ、非道なモンタギュー     殺したうえになおも復讐を求めるのか?     この悪党め、死ぬ覚悟はできているな? ロミオ:死ぬ覚悟はできている、だからこそここへきた     頼む、逃げてくれ     そしてこれ以上俺に罪を重ねさせないでくれ パリス:お断りだ!貴様の断罪、この私が引き受ける! ロミオ:俺を怒らせる気か?     いくぞ!! (ロミオ、パリス戦う) バルサザー:大変だ、夜警を呼びにいかないと パリス:うぐ・・・ここで果てるとは・・・     もしおまえに少しでも情けがあるなら     せめてジュリエットの・・側に     ・・眠らせてく・・れ・・ ロミオ:また・・・人を殺してしまった・・・     よく顔を見せろ     !?     マキューシオの身内、パリス伯爵じゃないか!?     たしかジュリエットと結婚するはずだったとバルサザーが・・・     パリス、その手を     俺とともに悲運の名簿に名を記された男     共に眠ろう、ジュリエットの側で 【場面:ジュリエットの眠る霊廟】 ロミオ:ああ・・・     ジュリエット!     また会えた・・・ ・・・・・・・・・     まだ唇や頬は赤々とはためいている・・・     ・・・本当に死んでるのか?     今にも起き上がりそうな・・・     死すら君から美しさを奪えないのか     短かったけど・・・いい人生だった     君に会えたからだよ、ジュリエット     ジュリエット、俺はもうどこへも行かないよ     この霊廟で眠ろう、君と永遠に     そのためにこの命の薬を     愛よ、俺に命を!     こう口づけをして・・・俺は・・・死・・・ぬ      (ロレンスがかけつける) ロレンス:この血はなんだ?      ロミオ!こんなに蒼ざめて・・      パリスもか!?      だがなぜこんなところに・・・?      あ、ジュリエットが ジュリエット起き上がる ジュリエット:ああ、神父様        私、どこにいるはずかよく覚えています        ここがそうですね        私のロミオはどこに? ロレンス:おまえの夫はおまえの腕に抱かれて死んでおる・・・      すまない、計画は失敗してしまった      さ、早く出てきなさるがいい      おまえを尼にし、修道女の教団にあずかってもらうことにしよう      む、人の声が、もうここにはいれない      さあジュリエット、早く! ジュリエット:どうか行って下さい        私はここに残ります ロレンス:ジュリエット・・・・ (ロレンスその場を去る) ジュリエット:杯が愛する人の手の中に・・・        毒ね、あの人の最期を招いたのは        私に一滴も残してくれないなんてひどい人ね        その唇にまだ毒が残ってるかもしれない ジュリエット、ロミオにキス ジュリエット:あなたの唇、まだあたたかいわ あ、人の声がした        急がなくちゃ! ジュリエット:こんなところに剣が・・・        この胸がおまえの鞘よ        私をあの人の元へ行かせて! (ジュリエット、ロミオの傍らで死す) 【場面:裁判】 大公:ではロレンス神父殿    今回の事件の経緯を話していただこうか ロレンス:わかりました            ・・・・・            大公様、以上がこの悲劇の経緯です      この悲劇に手を貸した罪、償う覚悟はできております・・・ 大公:聞いたか、モンタギュー、キュピレット    これがおまえたちの憎しみに加えられた天罰だ    二人は愛し合うがゆえに死にいたった    このわしとておまえたちの不和に目をつぶり    二人の身内を失った    われらはみな神の罰を受けたのだ! キュピレット:モンタギュー、兄弟としてそのお手を        ロミオの像を純金でもって建立させていただきたい        ヴェローナにこの悲劇が語りつがれるために モンタギュー夫人:劣らず立派なジュリエットの像をロミオのかたわらに         二人は私たち両家の憎しみの生贄になってしまった・・・ 大公:太陽も悲しさゆえにその顔をいまだ見せない    行くとしよう    そしてこの悲劇を語ろう    許すべきは許し、罰するべきは罰するとしよう    世に数ある物語の中でひときわあわれを呼ぶもの    それこそこのロミオとジュリエットの恋物語だ