ナレーター:花の都ヴェローナに       モンタギュー家とキュピレット家       二つの名門の家がありました       しかし両家は昔あったいざこざで       互いに恨むようになり       今もまだその傷跡が残っているのです       これはそんな両家に生まれた       二人の不幸な恋人たちの物語       どうぞ最後までご鑑賞くださいませ 【場面:モンタギュー家】 モンタギュー夫人:また我がモンタギュー家の召使いたちが          キュピレット家の召使いたちと喧嘩したらしいわね ベンヴォーリオ:もう大変でしたよ         最後は大公様が止めにこられましたし モンタギュー夫人:おかげで私が大公様にお叱りを受けたわ          ・・・まあもう終わったことね          それよりベンヴォーリオ、呼び出してごめんね          実は息子のロミオのことで相談があるんだけど          最近あの子元気がないみたいなんだけど          何か知ってる? ベンヴォーリオ:いいえ・・・ 伯母上は? モンタギュー夫人:それが私にも教えてくれないのよ          なんとか元気づけてあげたいんだけど・・・ ベンヴォーリオ:あ、ロミオだ         どうかあちらへ         私から聞いてみます モンタギュー夫人:そう、わかったわ    親友のあなたなら聞きだせるかも          頼んだわよ ロミオ:やあベンヴォーリオ     こんばんは ベンヴォーリオ:いや、まだ9時だからおはようだよロミオ ロミオ:そうか・・・     まだそんな時間なのか     悲しいときって時間が長くなるんだな ベンヴォーリオ:何か悩み事でも? ロミオ:・・・ ベンヴォーリオ:なあ、俺たち親友だろ?         どんなことだって相談にのるよ          ロミオ:・・・     ちょっと失恋をしただけさ ベンヴォーリオ:そいつはつらいな         そういう時は相手のことを忘れてしまったほうがいい ロミオ:じゃあ忘れる方法を教えてくれるか? ベンヴォーリオ:他の美人を見たら一発で忘れられるぜ ロミオ:ロザラインより美しい女性がいるはずないじゃないか・・・ ベンヴォーリオ:ほお、ロザラインだったのか そういえば一生独り身でいるつもりだとか言ってたな・・・ ロミオ:だから君には解決できないよ     さようなら ベンヴォーリオ:って、お、おい、ちょっと待ってくれよ 【場面:街路】 キュピレット:さて、今夜我がキュピレット家で宴会があるのだが        この紙に書いてある人たちのところへ行って        この招待状を届けにいってくれないか        ほれ駄賃だ 召使い:わかりやした     (なんか大切なことを忘れてるような・・・) 召使い:・・・・・・・・・・・・・・・     そうだ!俺は字が読めないんだった!     これはちょっと他の人に読んでもらうしかないな     お、丁度いいところへ字の読めそうな人たちが (ロミオ、ベンヴォーリオ登場) ベンヴォーリオ:いいか、火を消しつくすのは別の火         恋の病には別の恋の病というわけだ ロミオ:これ以上の恋の病にかかったら俺は死んじゃうよ     あ、こんにちは 召使い:こんにちは     失礼さんですが、旦那は読めやすか? ロミオ:読めるとも、俺のみじめな運命を 召使い:いえ、字が読めるかと聞いたんでげすが ロミオ:読める字は読めるし読めない字は読めないなぁ 召使い:時間の無駄だな、では失礼 ロミオ:待てって、読んでやるよ     どれどれ、マルティーノ殿ご夫妻ならびにご令嬢がた     ヴィトルーヴィオ夫人、マキューシオならびに弟御ヴァレンタイン     姪ロザライン、リディア、ヴァレンシオ殿ならびに従兄ティボルトetc ベンヴォーリオ:ほお、ロザラインが・・・ ロミオ:・・・     豪勢な顔ぶれだな、どこへ集まるんだい? 召使い:キュピレット家でさあ     旦那がモンタギュー家のお人でなけりゃ一杯やりにおいでなさいまし     じゃ御機嫌よう ベンヴォーリオ:丁度いい、この宴会に行きなよ         そして出席するロザラインと他の美人たちをよく見るんだ         君の白鳥がカラスに見えてくるから ロミオ:だからそれはないって ベンヴォーリオ:側に美人がいなかったから         彼女を美人だと思い込んでしまったのさ ロミオ:はいはい、わかったよ     行けばいんだろ、行けば     でも行くのはロザラインに会いにいくためだからな? 【場面:キュピレット家】 夫人:ばあや、娘はどこ?    ここへ呼んでおくれ 乳母:まあ!さきほどお呼びしたのに    子羊さあん!テントウムシさあん!    虫がついてはいけなかったわ    どこでしょう、ジュリエットさまあ! (ジュリエット登場) ジュリエット:だあれ? 乳母:お母様ですよ ジュリエット:はい、お母様、なんのご用? キュピレット夫人:実はね・・・          ねえジュリエット、あなたは結婚のことをどうお思い? ジュリエット:そのようなことはまだ夢にも キュピレット夫人:それならいまからでも結婚のことを考えてちょうだい          実はあのパリス様がぜひあなたをとおっしゃってるのよ 乳母:ま、お嬢様、あの方はすばらしい方ですよ キュピレット夫人:そうよ、あの方以上の男はこのヴェローナにはいないわ          パリス様を好きになれそう?          今夜宴会で会うと思うけれど ジュリエット:好きになってみます        見て好きになれるものなら… キュピレット夫人:そろそろ時間だわ          ジュリエット、パリス伯爵がお待ちよ 乳母:お嬢様、しあわせな昼にしあわせな夜がくわわりますよう 【場面:キュピレット邸の前】 ロミオ:さて、キュピレット家の屋敷の前に着いたわけだが     帰ろうか ベンヴォーリオ:なんでやねん マキューシオ:だめだロミオ、一緒に踊るぞ ロミオ:君たちの靴の底は軽いんだろうけど     おれの心の底は鉛のように重いんだ マキューシオ:人の言葉は善意にとれ ロミオ:善意に従うのが賢明とは言えないよ マキューシオ:それはどういう意味だ? ロミオ:実はゆうべ夢を見たんだ マキューシオ:おれも夢を見た ロミオ:どんな夢だい? マキューシオ:夢見るやつの話は信頼できないっていう夢さ ロミオ:俺のは夢見るやつの話は信頼できないって奴は信頼できないって夢だ ベンヴォーリオ:おしゃべりはそこまでだ         もう晩餐が終わる頃だぞ         遅すぎるかもしれない ロミオ:早すぎるかもしれない。 なんとなく胸が騒ぐ・・・     今夜を境に死神の気が変わって     まだ若い俺たちに命の清算を迫ったりしないだろうか     だが、わが人生の舵をとりたもう神よ     正しい航路を導きたまえ     さあ、行こう、元気な諸君! ベンヴォーリオ:結局行くんかい 【キュピレット家の宴会】 キュピレット:ようこそ皆さん!        本日はわがキュピレット家の宴会へ        お越しいただきありがとうございます ティボルト:・・・今日の宴会は人が多いな       そしてどこかにネズミが紛れ込んでいる気がする ロミオ:あの少女は誰だろう? あんなにかわいい子は初めてだ・・・     例えるならカラスの群れの中で1羽たたずむ雪のような白鳥     ベンヴォーリオ、俺は間違っていた     踊りが終わったらあの天使のところへ行ってみよう ティボルト:ん、あの声はたしかロミオ       おい、剣をもってこい! キュピレット:どうしたティボルト ティボルト:野郎、この祝宴を嘲りにきたな       ぶっ殺してやる! キュピレット:何を殺気立っているんだ? ティボルト:叔父上、あれはモンタギュー、敵です       この祝宴を嘲りにやってきました キュピレット:あれはロミオだな、まあ落ち着け        あの男も紳士らしく振舞ってるじゃないか ティボルト:それは今のうちだけです!       もうがまんできません キュピレット:なに、がまんできませんだと!?        貴様わしの客人の中で騒動をはじめるつもりか! ティボルト:ですが叔父上! キュピレット:ばかな!この若造が        ここの主人はわしか?おまえか?        ええい、なんとしてもだまらせてやるぞ!        さあ、こっちへ来い ティボルト:この場は引くが、野郎、今に見ていろ キュピレット:早く来い! (キュピレット、ティボルトを連れて退場) ロミオ:お待ちください天使様!     この罪を少しでも軽くするために     せめてその袖に触れさせてください ジュリエット:私は天使ではありませんし        そんな力なんて持ってませんよ? ロミオ:いえ、そのお姿は確かに天使様     あなたにしかこの罪を軽くできません ジュリエット:・・・・        一体どんな罪を犯してしまったんですか? ロミオ:それを今からご覧にいれます     どうぞ目を瞑っていてください ロミオ、ジュリエットにキス ジュリエット:どうしよう・・・        あなたの唇から罪を受けちゃった・・・ ロミオ:この私の唇から罪を?     ではその罪をお返しください ロミオ、再びジュリエットにキス ジュリエット:・・・・ もうこの罪からは逃げれないのね・・・ (乳母登場) 乳母:お嬢様、お母様がぜひお話なさりたいと (ジュリエット退場) ロミオ:あの人のお母様とは? 乳母:この家の奥様ですよ ロミオショックエモ ロミオ:彼女がキュピレット!?     とんでもないことをしてしまった・・・ (ベンヴォーリオ登場) ベンヴォーリオ:おい、もうづらかるぞ         楽しみもここらで下り坂だ ロミオ:ああ、どうもそうらしい     だんだん不安になってきた・・・ (ロミオ退場、キュピレット登場) キュピレット:まあ皆さん、まだ帰り支度をするのは早いですぞ        おや、もうこんな時間        いや皆さん今日はわざわざのお越し、お礼申しますぞ        では皆さんおやすみなさい (キュピレット退場) ジュリエット:ねえばあや、あの方はどなた? 乳母:タイビーリオ家のご長男でいらっしゃいます ジュリエット:その人じゃなくていまドアから出ていかれる方は? 乳母:たしかペトルーシオ様と思いますよ ジュリエット:だからその人じゃなくて、その後の方は?        踊りをなさらなかったけど 乳母:たしかロミオと呼ばれていましたね、モンタギューの    憎い敵の一人息子ですよ ジュリエット:私のただ一つの愛がただ一つの憎しみから生まれてしまった!        知らずにお会いしたときには早すぎ        知ったときには遅すぎるのだわ        一人の人を憎み、そして愛さなければいけないなんて! 乳母:なんですか、それは? ジュリエット:歌の一節よ        ついさきほど踊った相手に教わったの♪ 乳母:そうですか    さ、行きましょう、皆さんお帰りですよ 【場面:キュピレット邸の庭】 ロミオ:早く立ち去らないといけないのに     どうして俺はまだキュピレット家の庭園にいるんだろう…     ああ… ジュリエット… ベンヴォーリオ:ロミオー おーい、ロミオ?!! ロミオ:! (ロミオ隠れる)  ベンヴォーリオ:一体ロミオはどこへ行ったんだ? マキューシオ:ふむ、呪文で呼び出そう     ロミオの浮気者?!     色好みの色情魔!!     歯の浮くような愛の言葉言ってみろ! ベンヴォーリオ:お、おいおい… マキューシオ:聞こえないな?     あわれ猿めは死にましたか!?     よーし、ロザラインの名にかけて呼び出すぞ!     その麗しい瞳、真っ赤な唇、その悩ましい肢体にかけて ベンヴォーリオ:ちょ、マキューシオ! マキューシオ:いつもの姿でおれたちの前に出て来い!!! ベンヴォーリオ:奴が本当に聞いたとしたら怒るぜ、それ マキューシオ:この程度じゃ怒らんさ     怒らせるには、     ロザラインを××ちまうぞ!とでも言うことだ ベンヴォーリオ:…どうやらやつはこの木立の中に隠れたらしい      恋は盲目、夜の闇の中にいたいんだろう マキューシオ:…だとすれば、射当てようとするのも無駄か     ロミオ、おやすみ、おれたちは帰るとしようか ベンヴォーリオ:そうしよう、無駄だよ      見つかりたくないやつを見つけようとしても 【キュピレット邸バルコニー前】 ロミオ:…やっと去ったか 全くデリカシーのない奴らだ     (!) ん?あの窓からさす光は…… ロミオ:ジュリエット!!! ジュリエット:ああ…愛しいロミオ、あなたはどうしてロミオなの!?        あなたがモンタギューでなければよかった…        どうかその名前をお捨てになって! ロミオ:(えっ…!)     (ジュリエットも…俺のことを…?) ジュリエット:そうすれば私もキュピレットの名を捨てます… ロミオ:(どうしよう、話しかけようか・・・) ジュリエット:家名を捨てた代わりにこの私を受け取って… ロミオ:受け取ります! ジュリエット:(!)        ロミオ!? ロミオ:これからはモンタギュー家のロミオではない     ただのあなたの恋人… ジュリエット:あぁロミオ…そこにいるのね、その声でわかるわ…        恥ずかしい…この想いを聞かれてしまったのね        ロミオ:モンタギュー…自分の名前が憎らしい… ジュリエット:ここがお分かりになったのは誰の手引きで? ロミオ:恋の手引きで ジュリエット:あぁロミオ…、本当に!?信じていいの? ロミオ:もちろんだよ     ここで愛の誓いをしてもいい     もしもこの愛が…―   ジュリエット:お願い、やっぱりそれ以上はやめて…! ロミオ:(?) ジュリエット:早急すぎてこの恋が早く消えそうで怖いの…        あぁ、もうばあやが起こしに来る時間…        おやすみなさい… ロミオ:ま、待ってくれ!      ジュリエット:まもなく朝、ずっと一緒にいたいけれど…        あなたも早く行かなくちゃ、見つかってしまう ロミオ:せめてこれだけは信じてくれジュリエット!     ぼくのこの想いは真実なんだ! ジュリエット:………もし結婚を考えてくださるのなら        明日、あなたのもとへ人を送りますから        どこでいつ、式をあげるか知らせてください        ロミオ:この魂にかけて… ジュリエット:使いは何時にやりましょう ロミオ:朝の9時ごろ ジュリエット:では、必ず…        どうか心変わりなさらないでね…        おやすみなさい ロミオ:・・・おやすみ ロミオ:・・・・・・・・・・・・     そうだ、今から神父の庵に行こう!     結婚の報告と、今後のために助言を得なくては 【場面:教会の庭】 ロレンス:これは毒を含む草、こっちは薬汁をもつ花々…      う?… 薬草摘みも最近腰に来る…      陽が上がって夜露が乾かないうちに摘まなければ… ロレンス:この1茎の小さな花には害毒も薬効もある      …これらの二面性は草だけでなく人にもあるな…      美徳そのものが悪徳に転ずるも用法次第      行動次第で悪徳もまた栄誉をうる ロミオ:おはようございます、神父様 ロレンス:(!)      祝福あれ      こんな朝早くに珍しいな      その顔、さては寝てないな ロミオ:実はそうなのです… ロレンス:罪深い奴め、ロザラインと一緒だったのか? ロミオ:違います、神父様     彼女のことは忘れました ロレンス:じゃあどこで夜を明かしたんだ? ロミオ:キュピレット家の庭園です     昨日の宴会で思いもかけずキュピレットの娘に恋をしました     彼女も同様に私に恋を… ロレンス:ほう… ロミオ:それで実は今日すぐに結婚させて欲しいのです ロレンス:驚いたものだ、なんという気の変りようだ      あれほどロザラインに夢中だったのに ロミオ:神父様はロザラインへの恋に反対だったのに     …ダメなんですか? ロレンス:恋心に反対はしない、溺れるなといったのだ ロミオ:恋を葬れと ロレンス:古い恋を葬って新しい恋をするとは思わなんだ ロミオ:お許しを     新しい恋人は昔の恋人とは違って報いてくれるんです ロレンス:昔の恋に反対していたのは失敗すると思ってたからだ      まあいい、不実な若者よ、助けてやっていい      この縁組が、両家の関係を修繕するかもしれん ロミオ:それでは!     すぐ準備にとりかかりましょう ロレンス:分別をもってゆっくりとだ      慌てると仕損じるぞ 【場面:街路】 マキューシオ:ロミオの奴、一体どこ行きやがった?        ゆうべは帰らなかったらしいな ベンヴォーリオ:少なくとも実家にはな         そいえばうキュピレット家の甥のティボルトの奴が         ロミオに挑戦状を送ってきたらしい マキューシオ:恋にうつつの状態で、奴の剣の相手が務まるかね ベンヴォーリオ:おまえはティボルトをどう思う? マキューシオ:戦いぶりは楽譜どおりの歌の稽古といった        【格式ばったあっぱれ武芸の達人】 ベンヴォーリオ:そいつはゴリッパで マキューシオ:そうとも、決闘するにもそれらしいゴリッパな理由掲げて        剣名高めるのに懸命な名門だ        あの妙チキリンなキザったらしい言葉態度の変テコ野郎め! (ロミオ登場) ベンヴォーリオ:ロミオが来たぜ マキューシオ:なんだあの腑抜けたざまは!        今に恋の詩など口ずさむぞ        ロミオ殿、ボンジュール!        ゆうべはごちそうさま ロミオ:やあおはよう     ゆうべ何か食わせたっけ?? マキューシオ:置いてけぼりを食わせたじゃないか ロミオ:まあ許してくれ、マキューシオ     どうしようもない用事だったんだ      マキューシオ:なるほどどうしようもない恋の用事だとね ロミオ:そうだ、どうしようもない恋だ・・・ マキューシオ:まさか、ロザラインと共に永遠の貞節を誓うつもりか? ロミオ:ロザライン?     ああ、その恋は葬ったよ・・・ マキューシオ:葬った?じゃあ、君のその腑抜けた様はなんだ? ロミオ:どうしようもない恋のせいさ・・・ マキューシオ:おい、ベンヴォーリオ        また、ロミオが恋とやらにやられてしまったよ! ベンヴォーリオ:(ため息)ロミオ、今度のお相手は誰だい?          マキューシオ:ああ、きっとパーティにいたあのしおれた婆さんだろうよ!        ロミオはついに目までおかしくなったらしい・・・w ロミオ:勝手に言ってるんだな・・・ マキューシオ:あの婆さんはひどいな・・・        真っ赤な紅が口からはみだすほどに塗りたくられていた         ベンヴォーリオ:ハハハ!恋は盲目とはよく言ったものだ! (乳母登場) マキューシオ:おお!まさか! ベンヴォーリオ:おお!ロミオの恋のお相手が!? ロミオ:だから違うって・・・ ベンヴォーリオ:しかしやたらめかしたてたご婦人だな         扇なんかもってら        マキューシオ:扇で顔をお隠しあそばすとよ       扇のほうが顔より美しいからな 乳母:これはこれは、お殿方、お早うございます マキューシオ:これはこれは、お奥方、お遅うございます 乳母:遅いですって? マキューシオ:そのとおり!        日時計がみだらな指で、もう正午の急所を弄ってるからね 乳母:まあいやらしい!なんていう人なのです、あなたは! ロミオ:これでも神様がおつくりになった人なんだが     それも自ら壊すように 乳母:ま、これはうまいことをおっしゃる    ところで皆さん!    このあたりでロミオという青年をご存知ありません? ロミオ:このあたりでロミオという若者はぼくしかいないよ 乳母:まぁ!やっとお会いできましたわ!    私、あなたに用がありますの ロミオ:(!)     (そうか、この人がジュリエットの使いの…) マキューシオ:招きババアだ、そうれ出たぞ ロミオ:何が出たって? マキューシオ:招き猫ならぬ、やりての招きババア。        男ひっかけにきたんだぜ ロミオ:少しだまっていてくれないか マキューシオ:チェッ、ロミオ、おやじさんの家に帰るか?        それならごちそうになりに行くが ロミオ:おれは後から行く マキューシオ:ではさようなら、年古りし奥方様♪ 乳母:はい、さようなら!本当になんて小生意気な男でしょう!    酷いことばかり言って!!!キッー、くやしいッ! ロミオ:あれは自分が喋るのを聞くのが好きな男だからなぁ… 乳母:…ところでコホン! ロミオ様!    お話したいのは他でもない、お嬢様からの言づてです    ですがその前にいわせてください ロミオ:(?) 乳母:もしお嬢様を騙したり…    愚者の楽園に連れ込むようであれば、許しません ロミオ:ばあや、お前のお嬢さんに伝えておくれ     今日の午後、懺悔に出かけるよう 乳母:…はい ロミオ:修道士ロレンス様の庵で聴聞していただき     そのまま婚礼の式をあげると     さ、駄賃だ 乳母:駄賃だなんて、いただけません! ロミオ:いいから受け取ってくれ 乳母:今日の午後ですね。よろしい、確かに ロミオ:それから、修道院の塀の陰で待っていてくれないか? 乳母:? ロミオ:1時間足らずしたら、縄梯子を持たせた召使いをそこに差し向ける     それを使って、夜の闇にまぎれ彼女の部屋へ行けるように 乳母:! ロミオ:さようなら、頼んだぞ、骨折りにはきっと報いる     お前のお嬢さんにはよろしく伝えてくれ 乳母:…承知しましたわ    ところで、私のお嬢様はそれはもうお可愛くて    口も達者でー… ロミオ:? 乳母:お嬢様ったらこの町の貴族のパリス様に見染められて    でもあんな人のお顔を見るより    ヒキガエルの顔を見てたほうがマシだって言うんですよ ロミオ:・・・ 乳母:パリス様はなかなかの男前なんですけどね    それでは… 【場面:ジュリエットの部屋】 ジュリエット:ばあやまだかしら、半時間もすれば帰ると言ってたのに…        9時にばあやを使いにだしてから、もう3時間…        遅い…        恋の使いは足の早い人に頼むべきね        まったく…ぐずぐずのろのろ…        あっ! 帰ってきた ジュリエット:ばあや、ね、どうだった?お会いした??        まあ、悲しそうな顔をして! 乳母:ゼイゼイ…ちょっとお待ちください。 ジュリエット:悲しい知らせでも、楽しそうに話して。       乳母:はぁ…はぁ…私はすっかり疲れて… ジュリエット:いい知らせでも、そんな顔じゃ甘い調べを損なうわ   乳母:ああ…骨が痛む… 何しろ、あちこち駆けずり回って… ジュリエット:私の骨をあげてもいいから、はーやーくー! 乳母:見てください… ハァハァ…    もうすっかり息が切れて… ジュリエット:なによ!        息が切れて、というだけの息があれば        息は切れてないはずじゃないの!!!        ぐずぐずして、言い訳のほうが肝心の話より長いわ 乳母:そんなに急かさないで、ちょっとお待ちになれませんの?    ああ、頭が痛い・・・ ジュリエット:・・・・・・・・・        ごめんなさい、辛い仕事をさせて…。        大好きなばあや、あの人は何て? 乳母:・・・・・    ロレンス神父様の教会へ    そこで夫となる人がお嬢様を妻にするためにお待ちですよ ジュリエット:まぁ…!! 乳母:だから早く、礼拝堂へ    ばあやはよそに回って縄梯子を取ってきますからね    今夜は初夜、あの方がそれを登って、お嬢様の部屋へ… ジュリエット:(てれてれ)        ばあや、いってくるわ! 【場面:教会】 ロレンス:願わくは神よ、この聖なる儀式に微笑を贈り給え      後日、悲しみもて我らを罰したまわざらんことを ロミオ:アーメン     だが例えどんな悲しみがこようとも、     この喜びに勝る悲しみがあるとは思えません     どうか聖なる言葉で二人の手を結んでください ロレンス:このような激しい喜びに激しい破滅が伴う      勝利の最中に死が訪れる      そして甘すぎる蜜はすぐに飽きがくる      だから程よく愛するのだ、それが永き愛の道      早すぎる歩みは遅すぎる歩みと同じだ ロレンス:おお来たな ジュリエット:ご機嫌麗しゅう、神父様 ロレンス:ロミオが二人分あいさつを返してくれよう ジュリエット:ではロミオにも        でないとお返しのほうが多すぎます ロミオ:ジュリエット     これから二人が受ける夢のような幸せを     豊かな音楽で歌いあげてくれないか     僕では歌い切れないくらいこの幸福は大きすぎるんだ ジュリエット:言葉は所詮うわべの飾りよ        心の思いは言葉より内容が豊かなもの        財産を教えあげられるのは貧しいものに限られるわ        私のあなたへの愛は増える一方… ロレンス:さ、ついてくるがいい、急ぎ済ませよう      聖なる教会が二人を一つに結び付けるまでは      一時も二人だけにしてはおけぬ掟でな (二人とも本当に幸せそうだ…)      (これが縁で両家が幸せに結ばれるといいが)      (なぜだか胸騒ぎがする…)      (いやいや、きっとこれは私の思い過ごし)      (神よ、この若い二人に祝福あれ!)