『ちいさなからだ』  自覚はなかったけれど。  多分、わたしの体は小さいんだろうと思った。  別に嫌なわけじゃない。どころか、今この瞬間に限っては、私の矮躯に感謝した。  だって。  尾崎さんの腕に、すっぽり収まることができるから。 * * *  お泊まり会。  ……なんて言えば可愛らしいけれど。  尾崎さんが家にネットを繋げたいというので、午前中に秋葉原でパソコンを購入した。  その後、彼女の部屋まで来て、私が設定をした。  なんだかんだで夜も更けてしまい、尾崎さんが誘ってくれて、今日は泊まることになった。  一緒にご飯を食べて。お風呂に入ったあと、色んなインターネットのページを教えてあげ たりして。  日付が変わって、明日も仕事があるので寝ることになった。  尾崎さんは、最初は私にベッドを譲って、自分は床で寝ると言い張っていた。でも、それは あんまりだ。何分か押し問答をしたあげく――結局、一緒にベッドで眠ることになった。  二人で一緒のベッドに入り、同じ毛布にくるまる。  お互いの呼吸がわかる。ぬくもりがつたわる。鼓動の音が聞こえてきそうだ。  尾崎さんは、なんだかとても恥ずかしそうだった。ちっとも目を合わせてくれなかった。  私と尾崎さん。誰よりも近い距離。なんだか世界に二人だけしかいないみたい。  あまりにも尾崎さんが恥ずかしそうなので、私は目を閉じて、眠ったフリをした。  尾崎さんはしばらくしてから、私が眠ったかどうか言葉で確認をしてから、  ――そっと。私を、抱き寄せた。  尾崎さんの腕に包まれる。決して強くはなく、まるでガラスを抱きしめているような、儚い 力加減だった。  彼女の胸の中は……前に抱き合ったときと同じで、やっぱり冷たかった。  突然の彼女の行動には驚いたけれど、嫌ではなかった。むしろ、とても心地よかった。  私は、眠ったフリをやめようと思って、口を開こうとした。  そのとき、  ――絵理  尾崎さんが、私の名前を呼んだ。  こんなに近くにいるのに、まるで私のことを探してるみたいな真剣さで。  ――絵理  もう一度、私を呼ぶ。二度、三度、と確かめるように、何度も。  少しずつ、抱き寄せる指先に力がこもってゆく。  ――絵理……!  最後のほうは、なんだか泣きそうな声になっていた。  大きいと思っていた肩が、小さく震えている。  私は勘違いしていた。尾崎さんは、私を抱きしめてるんじゃない。  すがりついているんだ。  まるで幼子ように、私を引き寄せて。  ただ、不安から、震えていた。  ……何十分か経ったあと、尾崎さんは疲れたのだろうか、寝息を立て始めた。  私を抱きしめたまま。  私は目を開け、はだけていた毛布を尾崎さんの肩にまで引き上げる。  それから、またすっぽりと彼女の腕の中に収まった。  まだ、尾崎さんの体は冷たいままだ。  私は尾崎さんと密着する。体をあわせて、足を絡ませて……手を繋ぐ。  体温を分けてあげられるように。  ――だいじょうぶ。ずっと、いっしょだから。  疑問符をつけずに、彼女の胸の中で、たしかに私は言った。  私の体が小さくて、よかった。  大好きな人の腕の中に収まることができれば、  きっと、夢の中でも一緒だから。